獣医師、国際中医師の増田です。今回はまだまだなじみの少ないと思われる東洋医学について簡単に説明いたします。
一口に東洋医学と言っても、東洋=アジアを指しますので、東は日本から西はインドや中東までを含みます。広大な地域で発祥、発展していった伝統医療が広い意味での東洋医療となります。私たち日本人がイメージする東洋医療はその中でも東アジア、特に特に中国が起源となる「中医学」がベースになっています。
2000年以上前の中国で生まれ、様々な改良を加えられ現代まで息づいています。日本には7世紀ごろ遣隋使や遣唐使によって伝来したとされます。そのノウハウを活かして日本国内でアレンジされたものが「日本漢方」として確立されています。
基本的な東洋医学の考え方として、キーワードになるのは「バランス」です。
この世に存在する様々な構成要素があり、それらが日々変化していることで季節や昼夜を形成しているということ、一方でわたしたち生物もその体内ではその変化に合わせて、体を構成する要素がバランスをとりながら健康を保っている、という概念が基本になります。
☝このマークご覧になったことはありますか?
東洋医学を語るうえでよく目にするマークですが、これは陰と陽のバランスを表現したものです。白=陽、黒=陰というように、この世の中には相反する2つの要素があり、これが多すぎても少なすぎても乱れが生じることを表します。
例えば、昼は陽で夜は陰、夏が陽で冬が陰という対極的なイメージなのですが、1年を通して夏だけしかないということはありません。これは体の中でも同様で、運動しているときは陽、リラックスしているときは陰の陽に体の状態に合わせて陰と陽が状況に応じて力加減を調整している、ということです。これを「陰陽論」といいます。
また、「五行論」という考え方も存在します。
こちらは自然界の構成要素が「木」「火」「土」「金」「水」からなり、これは体内に存在する五臓(臓器のようなもの)と相関がある、というものです。
こちらの図と先ほどの図と見比べると、木は「肝」、火は「心」と同じような性質作用を持つという考え方です。これらは五臓といわれる内臓のような働きをするもののほか、季節や色、味覚や感情といった部分に影響を与えるとされます。医学だけでなく、方位学(風水)や占いなどにも応用されてきた中医学の根幹をなす思想となります。
他にも「表と裏」や「病と証」といった様々な視点から、体の特徴や変化を読み取り、個々に合った治療を行っていきます。
東洋医学で興味深いのは、現代医学で同じ診断名となった疾病に対して、異なる治療を行うことがあるという点です。例えばおなかを壊して下痢をした場合、暴飲暴食によって生じた下痢と、もともと胃腸が弱くおなかが冷えたことによって生じた下痢では、使用する漢方が異なります。つまり体質や経緯、血色や普段の生活の様子など事細かにからだを診ていくことが最も重要なスキルになります。
これらを改善させる手段として漢方薬や鍼灸、推拿(すいな:中国式整体術)などがあります。
この次は陰陽論や五行論と並んで東洋医学の大事な理論である「気血津液」について説明いたします。