獣医師、国際中医師の増田です。
先日11月8日に立冬を迎えました。暦の上ではもう冬になりました。つい先日まで記録的暑さが続いていた分、一気に気温が下がっていくのかもしれませんね。
私たち人間もそうですが、環境が一気に変わることで心身共に大きな影響を受けることがあります。
冬は、陰陽でいうとまさに「陰」が強い影響を受けます。気温が下がったり、昼間の時間が短くなりますし、冬眠をする動物、また植物も葉が落ちて必要以上にエネルギーを消費しないように対策をとったりします。
このような冬の時期に、陰に対する「陽」はどうなるのでしょうか?
【陰陽をあらわす太極図:陰と陽がそれぞれバランスをとりながら共存しています】
からだの中心に陽と呼ばれる熱や活力となる要素を集めるようになります。冬場、体幹に多くの血流を流し体温維持をすることと似ているかもしれません。
これは寒さから身を守るという目的のほか、冬の寒い時期にじっくりと元気や活力を体にためておくこと、夏の暑い時期に体内に蓄積した疲労や消耗を回復させて、次に来る春に向けて準備をしている状態と捉えることが出来ます。
一方、東洋医学では五行説と呼ばれる方法で物事をとらえることもよく行われています。
【五行説での五臓(からだの臓器に相当するもの)との関連性】
五臓六腑という言葉がありますが、この「五臓」というものは五行説で表された「肝」「心」「脾」「肺」「腎」のことを指します。
また、五行と季節とも密接な関係があり。上の図でいうと、冬は「水」「腎」の部分に相当します。冬の時期はこの「腎」に負担が大きくかかる傾向になることを意味します。
「腎」は実際の腎臓の機能と同じように排泄や水分、血圧などの調整に関わるほか、発育や精力などにも影響を与えます。そして、骨や歯とも密接に関係しているため、腎の働きが弱ったことによって泌尿器のトラブルや腰をはじめとした運動関連の不調をきたすことがあります。
実際にどうぶつ医療の現場で冬場に多い疾患として、尿路系トラブル(膀胱炎、尿路結石など)や運動器関連だと椎間板ヘルニアなどが挙げられます。
一方で心臓疾患も多くなります。温度変化が大きくなり血圧の変動が大きくなるほか、循環する血液のバランスが変化することが関係します。東洋医学的にみると、腎の不調が心に波及することがあります。「心腎陽虚」となることが動物では多い印象があり、疲れやすさ、運動していないものの心拍数が増加する、あるいは息切れ、チアノーゼ(舌や粘膜色が薄紫色になること)といったものが見られます。
これらに対して鍼灸や漢方を使用して体調を整えることがあります。また、一般の治療の補助をする目的でもこれらの方法を用いることがあります。
「冷やさない」ためにできること
おうちで冬を快適に過ごしていくためには、やはり「冷やさないこと」が重要と考えます。
ただ、やみくもに温めればよいというわけではありませんが、個々にあった適温で過ごせることが望ましいですね。屋外と室内との温度変化が起こりやすい時期でもあるため、その差で血管が一気に収縮や拡張をした場合、心臓に大きな負担をかけることがあります。
そのため、日頃から軽めの運動(お散歩など)をして基礎代謝を維持し、四肢の冷えがある場合にはマッサージをするのもよいかもしれません。体温を維持するために、夏よりも冬の方がエネルギーの消費が多くなる傾向があります。体の栄養状態にあわせた食事をとることも重要です。
また、不調かなと思った場合には早めに相談、診察を受けることをおすすめします。
これから寒さが厳しくなっていきますが、おうちの方、愛犬・愛猫さんたちも元気にお過ごしになれることを願っています。